第6章までで、Cloudflare上にプログラムを置き(Workers)、データを保存する(R2・D1など)方法を見てきました。第7章では、そこにAIを組み込む話に進みます。
AIを使うアプリケーションを作るとき、多くの人はまずOpenAIやAnthropicなどのAPIを呼び出すことを考えます。それも正しい選択ですが、Cloudflareにはもう一つの道があります。Cloudflareのネットワーク上に置かれたGPUで、オープンなAIモデルを直接動かすという方法です。それがWorkers AIです。
このページで分かること
- Workers AIとは何で、どこでAIモデルが動いているのか
- 使えるモデルにはどんな種類があるのか
- Workerからどうやって呼び出すのか
- Neuron(ニューロン)という料金の単位と無料枠
- 外部のAI APIと比べて、どう使い分けるのか
Workers AIとは
Workers AIは、Cloudflareの世界中のデータセンターに配置されたGPUを使って、AIモデルの推論(inference)を実行するサービスです。
「推論」とは、学習済みのAIモデルに入力を与えて結果を得る処理のことです。文章を書かせる、画像を生成する、音声を文字にする、文章を数値のベクトルに変換する――こうした「モデルを使う」側の処理がすべて推論にあたります。AIモデルを一から学習させる処理(トレーニング)はWorkers AIの守備範囲ではありません。
Workers AIの特徴は、この推論を動かすためにサーバーを1台も用意しなくてよいことです。GPUは高価で、しかも常時起動していると使っていない時間も課金されます。Workers AIはWorkersと同じ発想で、リクエストが来たときだけ実行され、使った分だけ課金される形になっています。

どこで動いているのか
Workers AIのGPUは、Cloudflareのネットワーク内の多数の拠点に配置されています。利用者に近い拠点で処理できれば、通信の往復にかかる時間が短くなります。
ただし、GPUはCDNのキャッシュのように全拠点にあるわけではありません。大きなモデルほど動かせる拠点は限られるため、「必ず最寄りの街で動く」とは考えず、推論を専用サーバーに送るのではなく、Cloudflareのネットワークの中で完結するという理解が実態に近いところです。
重要なのは、利用者側から見れば置き場所を意識する必要がないという点です。リージョンの選択も、GPUの種類の指定も、容量の見積もりも必要ありません。
使えるモデルの種類
Workers AIには、用途ごとに整理されたモデルカタログが用意されています。オープンな(重みが公開されている)モデルが中心で、Meta社のLlama、Mistral、Google、DeepSeek、Moonshot AIなど、さまざまな提供元のモデルが並んでいます。

主なタスクの種類は次のとおりです。
| タスク | 何をするか | 使いどころ |
|---|---|---|
| テキスト生成 | 文章を書く・質問に答える | チャットボット、要約、下書き生成 |
| テキスト埋め込み | 文章を数値のベクトルに変換する | 意味による検索、RAG |
| 音声認識 | 音声を文字に起こす | 議事録、字幕生成 |
| 画像生成 | 文章から画像を作る | サムネイル、素材作成 |
| 画像分類・物体検出 | 画像に何が写っているかを判定する | 投稿画像の自動チェック |
| 翻訳・要約 | 言語変換・文章の短縮 | 多言語サイト、記事の要約 |
モデルは @cf/meta/llama-3.1-8b-instruct のように、@cf/提供元/モデル名 という形式のIDで指定します。カタログには常に新しいモデルが追加され、古いモデルは事前告知のうえ提供終了になります。モデルIDをコードに直接書き込むのではなく、設定値として外に出しておくと、あとで差し替えやすくなります。
Workerから呼び出す
Workers AIを使う最も基本的な方法は、Workerに「AIバインディング」を追加することです。バインディングとは、Workerから他のCloudflareサービスを使うための接続設定でした(Workersのページで説明しています)。
設定ファイル(wrangler.jsonc)に次の1行を追加します。
{
"ai": { "binding": "AI" }
}
これで、Workerのコードから env.AI として呼び出せるようになります。
export default {
async fetch(request, env) {
const response = await env.AI.run("@cf/meta/llama-3.1-8b-instruct", {
prompt: "Cloudflareとは何ですか",
});
return Response.json(response);
},
};
注目すべきは、APIキーがどこにも出てこないことです。外部のAI APIを使う場合は、APIキーを取得し、秘密の値として安全に保管し、コードから読み込む必要があります。Workers AIはCloudflareアカウント内のサービスなので、バインディングを設定するだけで認証が済みます。鍵の管理も、鍵の漏えいの心配もありません。
Worker以外からも使えます。REST APIを叩けば、自宅のパソコンや他社のサーバーからでも同じモデルを呼び出せます。
Neuron(ニューロン)という料金の単位
Workers AIの料金は、Neuron(ニューロン)という独自の単位で計算されます。
モデルによって「1回の処理でどれだけGPUを使うか」はまったく違います。小さな文章モデルと大きな画像生成モデルでは、消費する計算量が何十倍も違います。それを一つの物差しで測るための単位がNeuronです。
- 無料枠:1日あたり10,000 Neuron(毎日 00:00 UTC にリセット)
- 超過分:1,000 Neuronあたり 0.011ドル(Workers有料プランが必要)
無料枠は、Workers無料プランでも有料プランでも同じく1日10,000 Neuronが付きます。1日10,000 Neuronを超えて使いたい場合にWorkers有料プラン(月5ドル〜)が必要になる、という関係です。
モデルごとの単価は公式のモデル一覧に「100万入力トークンあたり何Neuron」という形で公開されています。小さなテキスト生成モデルは100万トークンあたり約2,500 Neuron、最上位の大型モデルでは約12万Neuronと、50倍近い開きがあります。試作の段階では小さなモデルを選び、必要になってから大きなモデルへ切り替えるのが無駄のない進め方です。
なお、2026年7月28日以降、一部の大型モデル(Moonshot AIのKimi K2.6・K2.7-code、GLM-5.2、DeepSeekのv4-flash・v4-pro)は無料プランでは利用できず、Workers有料プランまたは前払いのAI Gatewayクレジットが必要になっています。
レート制限
料金とは別に、1分あたりの呼び出し回数にも上限があります。タスクの種類ごとに決まっており、代表的なものは次のとおりです。
- テキスト生成:毎分300回
- テキスト埋め込み:毎分3,000回
- 画像分類・物体検出:毎分3,000回
- 音声認識・画像生成・翻訳:毎分720回
個人サイトや社内ツールであればまず届かない水準ですが、大量のデータを一括処理するようなバッチ用途では意識が必要です。
AI Gatewayとの統合(2026年8月)
2026年8月7日、CloudflareはWorkers AIとAI Gatewayを1つの操作画面(コントロールプレーン)に統合しました。
以前は、Workers AIでモデルを動かすことと、AI Gatewayで呼び出しを監視することは別々の製品でした。統合後は同じAIバインディング・同じAPIエンドポイントで両方が使え、Workers AIへの呼び出しは既定でAI Gatewayを通るようになっています。
利用者から見た変化は次の点です。
- 何も設定しなくても、すべての推論がログに記録される
- モデルごとのトークン数と費用が自動的に集計される
- AI Gatewayにチャージしたクレジットで、Workers AIも外部プロバイダも支払える
つまり、Workers AIを使い始めた時点で、次のページで扱うAI Gatewayの観測機能が最初から効いている状態になります。
外部のAI APIとの使い分け
Workers AIがあるからといって、OpenAIやAnthropicのAPIが不要になるわけではありません。それぞれ得意な領域が違います。
| Workers AI | 外部のAI API | |
|---|---|---|
| モデルの種類 | オープンモデル中心 | 各社の最上位モデルを含む |
| 性能の上限 | 中〜大規模モデルまで | 最先端の大規模モデル |
| APIキー管理 | 不要(バインディング) | 必要 |
| 応答の速さ | 近い拠点で実行 | 提供元のリージョン次第 |
| 料金の考え方 | Neuron(使った分だけ) | トークン単価 |
| データの経路 | Cloudflareネットワーク内 | 外部サービスへ送信 |
判断の目安は次のとおりです。
- 埋め込み・分類・翻訳・要約・音声認識のような、決まった処理を大量にこなす用途 → Workers AIが向いています。安く、速く、鍵の管理も要りません
- 難しい推論や長文の作文など、モデルの賢さが結果を左右する用途 → 外部の最上位モデルが有利な場面が多くあります
- 両方使うのも普通の選択です。埋め込みはWorkers AI、最終的な回答生成は外部モデル、という組み合わせはRAGでよく使われます
初心者が注意するポイント
- 無料枠は「1日」単位です:月単位ではありません。試作中にうっかり大量のリクエストを流すと、その日は打ち止めになります
- モデルによって入出力の形が違います:テキスト生成でも
promptを渡すものとmessagesの配列を渡すものがあります。使う前にモデルごとのドキュメントを確認してください - 応答は遅いことがあります:大きなモデルほど時間がかかります。利用者を待たせる画面ではストリーミング(少しずつ返す方式)を使うか、Queuesで非同期に処理する設計を検討してください
- モデルの提供終了に備える:オープンモデルは入れ替わりが速く、廃止予定が告知されます。モデルIDを一箇所にまとめておいてください
- AIの回答をそのまま信じない:Workers AIに限らず、生成された内容が事実である保証はありません。正確さが必要なら、自分のデータを根拠にするRAGの仕組みが必要です
関連サービス
- Workers:Workers AIを呼び出す実行環境
- AI Gateway:AI呼び出しの記録・キャッシュ・制御。2026年8月にWorkers AIと統合
- Vectorize:埋め込みモデルが作ったベクトルを保存・検索する
- Queues / Workflows:時間のかかる推論を非同期に処理する
- R2:音声・画像など、推論の入力になるファイルの置き場所
まとめ
- Workers AIは、Cloudflareのネットワーク上のGPUでオープンなAIモデルを動かすサービス。サーバーの用意は不要
- テキスト生成・埋め込み・音声認識・画像生成など、用途ごとにモデルカタログが用意されている
- WorkerにAIバインディングを追加すれば
env.AI.run()で呼べる。APIキーの管理が不要 - 料金の単位はNeuron。1日10,000 Neuronまで無料、超過分は1,000 Neuronあたり0.011ドル
- 2026年8月7日にAI Gatewayと統合され、既定でログ・トークン数・費用が記録されるようになった
- 外部のAI APIとは競合ではなく使い分け。大量の定型処理はWorkers AI、高度な生成は外部モデルという組み合わせが実用的
Workers AIを使い始めると、次に気になるのは「実際に何回呼ばれて、いくらかかっているのか」です。そして呼び出し先が外部のAI APIも含めて複数になると、その管理はさらに難しくなります。次のページでは、それらをまとめて見える化するAI Gatewayを扱います。
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※本記事の情報は 2026年8月時点のものです。