Zero Trustとは?境界型防御との違い

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第3章のテーマはZero Trust(ゼロトラスト)です。第2章では、インターネットに公開したWebサイトやAPIを外部の攻撃から守る仕組みを学びました。この章では視点を反転させます。守る対象は、社内システム・業務アプリ・NASの管理画面といった「本来は限られた人だけが使うもの」と、それを使う「社員や家族の端末」そのものです。

Zero Trustは特定の製品の名前ではなく、セキュリティの設計思想です。このページでは、まず従来のやり方である境界型防御を理解し、それがなぜ限界を迎えたのか、Zero Trustは何をどう変えるのかを順に見ていきます。この考え方が腑に落ちると、次ページ以降で学ぶCloudflareの個々の製品(Access・Tunnel・Gateway・WARP)の役割が一気に分かりやすくなります。

このページで分かること

  • 境界型防御(ペリメーターセキュリティ)とは何か
  • 境界型防御が限界を迎えた3つの理由
  • Zero Trustの基本原則「決して信頼せず、常に検証する」
  • 検証に使う3つの材料(本人・端末・状況)
  • CloudflareでZero Trustを実現する製品群の入口

境界型防御とは:「城と堀」のセキュリティ

内と外を分け、境界だけを固く守る

従来の企業ネットワークのセキュリティは、境界型防御(ペリメーターセキュリティ)と呼ばれる考え方で作られてきました。よく「城と堀」にたとえられます。

  • 社内ネットワークが「城の中」、インターネットが「城の外」
  • 境界にファイアウォールという「堀と城門」を築き、外からの侵入を防ぐ
  • 外から社内システムを使いたい社員は、VPN(Virtual Private Network:暗号化された専用の通信路を作る技術)という「跳ね橋」を渡って城の中に入る

この方式の前提は単純です。「城の中にいる者は味方だから信頼する。外は危険だから疑う」。場所(どのネットワークにいるか)が、そのまま信頼の基準でした。社内LANにつながってさえいれば、多くのシステムに素通しでアクセスできる会社は、いまでも珍しくありません。

境界型防御が限界を迎えた3つの理由

この城壁モデルは、次の3つの変化によって、現代の働き方と噛み合わなくなりました。

  1. 守るものが城の外に出た:業務データはいまや社内サーバーだけでなく、Microsoft 365やGoogle WorkspaceのようなSaaS(インターネット経由で使うサービス)の上にあります。城壁の内側をいくら固めても、肝心の宝物の多くはすでに城外のクラウドにあるのです
  2. 働く人も城の外に出た:リモートワークの普及で、社員は自宅やカフェから仕事をします。全員がVPNで城に入ってから改めてクラウドへ出ていく構成は、VPN装置に負荷が集中して遅くなるうえ、VPN装置自体の脆弱性が「城門の鍵穴」として攻撃者に狙われるようになりました
  3. 侵入された後に弱い:境界型防御の最大の弱点です。フィッシングなどでVPNのパスワードが1つ盗まれると、攻撃者は「味方」として城内に入れます。城の中は信頼が前提なので、そこから別のサーバーへ次々に移動する横展開(ラテラルムーブメント)を止める仕組みがありません。近年の大規模な情報漏えい事件の多くが、この経路で起きています

Zero Trustとは:「決して信頼せず、常に検証する」

場所ではなく、アクセスごとに検証する

Zero Trustは、この前提を根本からひっくり返します。合言葉は「Never trust, always verify(決して信頼せず、常に検証する)」。社内ネットワークにいるかどうかという「場所」を信頼の根拠にせず、内も外も等しく信頼ゼロから出発します。

そのうえで、システムへのアクセス要求が来るたびに、毎回検証を行います。城の中に入れたら後は自由、ではなく、すべての部屋の前に警備員を立たせて、入室のたびに身分証を確認するイメージです。確認するのは主に次の3つです。

  • 本人(アイデンティティ):正しいユーザーとして認証されているか。多要素認証(パスワードに加えてスマホ確認などを組み合わせる認証)を通っているか
  • 端末(デバイス):会社が管理する端末か。OSは最新か、ディスクは暗号化されているか(こうした端末の健全性をデバイスポスチャと呼びます)
  • 状況(コンテキスト):アクセス元の国や時間帯は不自然でないか。普段と違う振る舞いをしていないか
境界型防御とZero Trustの違い
図1:境界型防御とZero Trustの違い

最小権限:通ってよい部屋だけを開ける

もう1つの柱が最小権限(least privilege)です。検証を通過した人にも、その業務に必要なシステムだけを開放します。経理担当者には会計システムだけ、開発者には開発サーバーだけ、という具合です。これにより、仮に1人分の認証情報が破られても、攻撃者が動ける範囲はその人の権限内に限定され、境界型防御の弱点だった横展開を封じられます。

重要なのは、Zero Trustが「何かを買えば完成する製品」ではなく、設計思想だという点です。実現には、認証・端末管理・通信の検査といった複数の部品を組み合わせる必要があります。

CloudflareではZero Trustをどう実現するか

Cloudflareは、このZero Trustを実現する部品一式をCloudflare Oneという製品群として提供しています。第1章で学んだとおり、Cloudflareは世界中にデータセンターを持つ巨大ネットワークです。その全拠点を「どこにでもある検問所」として使い、ユーザーとシステムの間のすべてのアクセスを検証します。

  • Cloudflare Access:アプリの前に立つ警備員。アクセスのたびに本人と端末を検証します
  • Cloudflare Tunnel:サーバーやNASを、ポート開放なしで安全にCloudflareへつなぐ通用口
  • Cloudflare Gateway:社員の端末からインターネットへ出ていく通信を検査するフィルター
  • WARP(Cloudflare One Client):端末をCloudflareに接続するためのアプリ

それぞれの詳細は、この章の以降のページで1つずつ扱います。特筆すべきは料金で、これらのZero Trust機能は50ユーザーまで無料で使えます(2026年8月時点)。企業の全社導入では有料プラン(1ユーザーあたり月7ドル〜)が必要ですが、個人や家庭、小さなチームなら無料枠で本格的なZero Trustを組めます。

具体例:個人でもZero Trustは身近な話

Zero Trustは大企業だけの話ではありません。たとえば自宅のNAS(ネットワーク接続のストレージ)の管理画面を外出先から使いたい場合を考えます。

  • 境界型の発想:ルーターのポートを開放して管理画面をインターネットに公開する。ログイン画面が全世界に露出し、パスワード総当たり攻撃を受け続けます
  • Zero Trustの発想:管理画面はTunnelで非公開のままCloudflareにつなぎ、手前にAccessを立てる。自分のメールアドレスで認証を通った人だけが、ログイン画面にたどり着けます

前者と後者では、攻撃者から見える面積がまったく違います。この構成は第8章の実践ページで実際に手を動かして作ります。

初心者が注意するポイント

  • Zero Trustは製品名ではない:「Zero Trustを買う」ことはできません。ベンダーの製品はあくまで実現手段で、どのアクセスを誰に許すかを設計するのは利用者自身です
  • VPNを今日捨てる話ではない:多くの組織はVPNとZero Trustを併用しながら段階的に移行します。まず1つのアプリをAccessの後ろに置く、といった小さな一歩から始められます
  • 認証の土台が命:Zero Trustは「本人確認」に強く依存します。パスワードの使い回しをやめ、多要素認証を有効にすることが、どんな製品導入よりも先の第一歩です
  • 社内にいても検証される:導入後は、オフィスのLANからのアクセスにも認証が求められます。「社内なのに不便になった」ではなく、それこそが狙いだと理解しておくと、導入時の混乱が減ります

関連サービス

  • Cloudflare One:CloudflareのZero Trust製品群の総称(次ページ)
  • Cloudflare Access / Tunnel / Gateway / WARP:この章で順に解説する主要部品
  • WAF・DDoS Protection:外向きの公開サイトを守る第2章の機能。Zero Trustと組み合わせて全体の防御が完成します

まとめ

  • 境界型防御は「内は信頼・外は疑う」という場所ベースのセキュリティで、城と堀にたとえられる
  • クラウド・リモートワークの普及と、侵入後の横展開に弱いという構造的な欠点で限界を迎えた
  • Zero Trustは「決して信頼せず、常に検証する」が原則。本人・端末・状況をアクセスごとに検証し、最小権限で開放する
  • Zero Trustは設計思想であり、製品を買えば終わりではない
  • CloudflareはCloudflare Oneとして実現部品を提供し、50ユーザーまで無料で使える

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※本記事の情報は 2026年8月時点のものです。

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